Interview

みちびき初号機後継機 関係者へのインタビューをお届けします。

打ち上げ間近のみちびき初号機後継機。開発者に聞く

中田氏(左)と二木氏(右)

2010年9月11日に打ち上げられたみちびき初号機は、日本上空に長く滞在できる準天頂軌道に投入され、世界的にもユニークな"ほぼ真上から信号を降らせる"測位衛星となりました。2017年に2、3、4号機が打ち上げられ、翌2018年のサービス運用開始により4機体制が確立しました。これを確実に維持しつつ7機体制へ発展させていく上で、打ち上げが近づく「みちびき初号機後継機」は重要な役割を担います。初号機からみちびきを製造する三菱電機株式会社の鎌倉製作所を訪ね、二木康徳氏(宇宙システム部 準天頂衛星システム課 課長・プロジェクトマネージャ)と中田圭二氏(サブプロジェクトマネージャ)に、初号機後継機の概要や性能・信頼性向上のための工夫などを聞きました。[写真:中田氏(左)と二木氏(右)]

2号機以降は、原子時計を3個搭載

── 今回打ち上げる初号機後継機には、これまでの軌道上での運用経験がどのように生かされていますか。

中田 大きな違いは原子時計の数です。初号機で2個だった原子時計を2号機以降は3個搭載する設計となっており、初号機後継機でもそれを踏襲しています。

── 測位衛星のそもそもの役割は、正確な時刻を電波で地上に知らせることです。原子時計は、測位衛星にとって重要なモジュールですが、同時に非常にデリケートな機器でもありますね。

中田 世界で宇宙用の原子時計を製造しているメーカーはわずかしかなく、内部の情報もあまり開示されていません。衛星側でできるのは、数を増やして冗長性を高めること、そして原子時計そのものを大事に扱うことです。

みちびき初号機後継機 CGみちびき初号機後継機 CG[解説]
衛星測位は、人工衛星からユーザーまでの電波の到達時間から導かれる「衛星との距離」を正確に求めることが出発点となります。測位信号に刻まれる、正確な時刻を生成するのが原子時計の大きな役割であり、衛星自身の正確な位置(軌道)を知る上でも重要となります。初号機後継機では、ルビジウム(Rb)原子時計を3個搭載する冗長構成により、サービスの信頼性を向上させています。

── 大事に、というと?

二木 温度変化が小さくなるように制御した、原子時計用に設置した放熱面で具体的には北面パネルの裏側に取り付けてあります。

── 温度の安定したもっとも居心地のいい場所で安定した時を刻んでもらう訳ですね。

中田 そうして得られた正確な時刻情報と、地上から送信された航法メッセージ(衛星の軌道情報などを含む)を重ね合わせ、地上に向け放送するのが測位衛星の仕事です。また、別の意味でも温度は重要で、じつは初号機後継機では、従来機より多くの温度センサを衛星に追加配置しています。将来的な衛星性能向上に向けた研究開発のためなのですが。

温度を詳しく知り、性能を向上させる

── 温度を詳しく知ることが、衛星の性能アップにどうつながるのでしょうか。

中田 宇宙空間では太陽からの光に押される「太陽輻射圧」により、衛星の姿勢や軌道が乱されます。さらに物体自身が発する赤外線などによる「熱輻射圧」も働きます。高温の物体ほど多くの赤外線を出すため熱輻射圧も大きくなり、たとえばパネルの裏表で温度が違えば、高温側から低温側に向かう力が生じます。

── 局所的に高温の場所があれば、そこが推進力を持ってしまうと。場所が悪ければ、衛星を回転させたりすることになるのでは?

中田氏中田氏

中田 その力は非常にわずかで加速度換算で、太陽熱輻射で10-7 m/s2、熱輻射圧で10-8 m/s2のオーダです。ただ、わずかでもそれを正確に把握して補正すれば、衛星の姿勢や軌道がより正確に把握でき、測位精度の向上にもつながります。そうした目的に向けた研究開発の一環として、東京大学、JAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同研究の枠組みで行い、専門の学会で詳しい情報を発表することになっています。

みちびき初号機後継機<みちびき初号機後継機[解説]
衛星はサービス継続のため、推薬(推進薬)を使って姿勢や軌道を修正しながら運用を続けます。推薬枯渇が衛星の寿命を決めるため、衛星本体の軽量化は寿命に直結します。初号機後継機は、必要な電力(寿命末期で6.3kw)を確保しつつ、片側3枚だった太陽電池パネルを2枚(南北計4枚)に減らすなどの細かな軽量化策を重ね、ドライ(推進薬を充填していない状態)で1.6トンを切る軽量化を実現しました。
また、単なる軽量化だけでなく、質量中心位置をなるべく衛星中心軸に寄せるとともに、質量中心位置を正確に把握しています。質量中心位置を正確に把握できれば、姿勢制御用スラスタ使用時の擾乱(定常状態からの乱れ)が小さくなり、推薬消費を減らして衛星の長寿命化につながります。初号機後継機では、質量中心の位置がミリメートル単位で把握されています。

衛星はマイクロバスとほぼ同じ大きさ

── 非常に小さな領域の話を先に聞いてしまいましたが、衛星そのもの大きさは、だいたいどのぐらいなのでしょうか。

二木 太陽電池パネルを畳んだ状態のみちびきは、マイクロバスと同じぐらいのサイズです。全長が少し短めながら、高さや幅はほぼ同じです。一方、質量はドライで約1.6トン。マイクロバスというより中型の乗用車程度です。

── よく衛星バスという言葉を聞きますが、そこでもバスが出てきます。人が乗るバスではなく、ミッション機器が乗るバスということでしょうか。

二木氏二木氏

二木 そうです、人工衛星の基本的な機能を実現する共通デザインは一般に「衛星バス」と呼ばれ、当社でそれに相当するのが「DS2000」という標準衛星プラットフォームです。現行の気象衛星「ひまわり」シリーズや海外企業の通信衛星など、14機を軌道上に送り出しており、累積の稼働時間は今年8月末の時点で計112年になりました。

── 112年!

二木 安心してご乗車いただけます(笑)

打ち上げ後、軌道上での試験を終え運用へ

── マイクロバスほどの大きさの衛星は、ここ鎌倉から船で種子島へ運ばれ、宇宙センターの大型ロケット整備棟で、ビルの17階ほどの高さのロケットのてっぺんに取り付けられます。打ち上げ後、ロケットから切り離された衛星は、どのように軌道を目指すのですか。

中田 まず分離の前に姿勢を安定させるためのスピン(コマのような回転)を与えられます。そして分離直後に、電源を確保するための太陽電池パネルを展開します。ゆっくりしたスピンの状態を保ったまま、衛星底部にあるアポジキックエンジン(楕円軌道の地球から遠い方の端=遠地点で噴射するエンジン)を複数回に分けて噴射し、徐々に軌道高度を上げ、準天頂軌道まで登っていきます。

鎌倉製作所の衛星生産棟鎌倉製作所の衛星生産棟

── 目的の軌道に到達したら?

二木 アンテナ面を常に地球に向ける姿勢変更を行います。この時、太陽電池パネルは南と北に、衛星自身が姿勢を知るためのスタートラッカー(撮影した恒星の配置から衛星の姿勢を計測する)は南側を向きます。

── 南十字星を見ながら姿勢制御とは、ロマンチックですね。

中田 明るい星を目印にするだけなので、星座は関係ないと思います、残念ながら。

── 軌道と姿勢が決まったら、次は地上に向け電波を降らせる

二木 地上に向け試験電波を降らせて、そのレベルや品質を確認します。試験の中には、わざと衛星の姿勢を動かして、受信エリアの端近くでレベルを確認するメニューもあります。これらすべてをクリアして、お客様である内閣府に衛星を引き渡します。慎重を期して試験を進めるため、打ち上げ後すぐという訳にはいきませんが、なるべく早く、完全な形で衛星をお渡しするようにいたします。

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)