Interview

みちびき初号機後継機 関係者へのインタビューをお届けします。

種子島で内閣府担当者が語る、初号機後継機打上げへの道のり

伊藤研修員(左)と前田企画官(右)

“世界一美しいロケット発射場”と言われる種子島宇宙センターで、H-IIAロケット44号機打上げに向けた作業が進められています。ロケットに搭載され宇宙に送りだされる「みちびき初号機後継機」に関わってきた内閣府の担当者2名、内閣府宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室の前田剛企画官(みちびき初号機後継機プロジェクトマネージャー)と伊藤大智研修員(JAXAから行政実務研修員として内閣府に派遣中)が、後継機ならではの役割や注目ポイントを語ります。[写真:伊藤研修員(左)と前田企画官(右)]

種子島の海と空の下、順調に作業は進む

── そちらでの作業は、いかがですか?

前田 ひと言で言うと「順調」です。やるべき作業を絞り込み、試験や作業を効率的に進められているのは、間違いなく2、3、4号機打上げの経験と蓄積あってのことです。

── 美しい種子島の海や空を眺める余裕も?

前田 空模様は気にしてよく見ています。衛星は、まもなく大型ロケット組立棟に移動します。鎌倉から到着し、敷地内の衛星フェアリング組立棟で開梱、試験、燃料充填を無事終え、いよいよロケットと結合します。

── フェアリング(ロケット先端で上昇中の空気振動や加熱から衛星等を護る部材)に収められた衛星が、組立棟までしずしずと移動する訳ですね。

前田 雨が多少降っても問題ないのですが、できれば晴れていてほしいという親心で空を眺めています。また、長期予報も気になります。われわれがパーフェクトな準備をしても、天候による延期はあり得ます。でも天気は変えられないので、空を見上げてみたり、気象衛星の雲画像を眺めたりして気を揉むしかないので。

前田企画官前田企画官

「実用衛星」として国民生活を支える

── 2010年に打ち上げられたみちびき初号機はJAXAが開発・運用に関わり、2017年2月に内閣府に移管されました。宇宙や衛星と聞くと多くの人は「JAXAが担う」と思いますが、なぜみちびきは内閣府が運用するのでしょうか?

前田 端的に言うと「実用衛星だから」です。JAXAは組織名に“研究開発“とあるように、チャレンジが本務です。一方、社会生活を支えるインフラであるなら、それを担当する組織が運用も担うのが当然で、「ひまわり」なら気象庁が、放送や通信を担う衛星は民間企業がオペレーターとなってサービスを提供しています。みちびきもそういう位置付けです。なぜ内閣府なのかは、もちろん宇宙基本計画の重点事項に示されていることもありますが、測位補強や災害・安否メッセージのサービスが国民生活のあらゆるシーンに関わるから、という答えになると思っています。

── みちびき初号機が移管した2017年には6、8、10月とたて続けに3機が打ち上げられ、翌2018年11月から4機体制でのサービス開始となりました。今回の初号機後継機打上げは、これに続くイベントになりますね。

前田 衛星は4機ですが、初号機はすでに10年の設計寿命を超えています。だからといってすぐ機能を失う訳ではありませんが、実用衛星を名乗るなら、本来は気象衛星ひまわりのようなバックアップ衛星を持つ体制が必要です。リソースが限られ、急にそこまではできませんが、初号機後継機の稼働により4機体制がより確かなものになるのは間違いありません。

── これで4機体制が確立し、7機体制が見えてくると。

前田 準備作業は順調と申し上げましたが、その順調な中でも、何かトラブルがあった場合はどうするか、つねにプランB(代替案)を頭に置きながら考えを巡らせ、空を眺めています。

コロナ禍での困難な作業を完遂

伊藤研修員伊藤研修員 ── 射場作業が始まる以前の、衛星製造や試験ではどんな苦労がありましたか?

伊藤 どの仕事もそうだと思いますが、コロナ禍での作業が大変でした。現場で立ち会えば済むことも、行けない、見られないとなるとオンライン会議の回数が増え、資料作成の手間が増します。コロナがなければ必要なかった仕事が増える中、不具合につながりそうな情報なども多くを共有いただく体制を構築でき、確実にプロジェクトを進めることができました。

── “ワンチーム”になれましたか?

伊藤 チームとしては、衛星を開発した三菱電機を始め、関連企業の方々に多くのご負担をいただきました。種子島に来てからはロケット整備に関わる三菱重工や、射場を運用するJAXAとも、密を避けつつ、情報共有は密に順調に作業を続けられています。これも、種子島に来る前の綿密なインタフェース調整があったからだと考えています。

前田 打上げが成功して衛星も100%機能するという結果を出し、関わった皆さんと“ワンチーム”になれました、と喜び合いたいですね。

伊藤研修員伊藤研修員

── 伊藤さんには以前、みちびきウェブサイト記事で「オーストラリアでのはやぶさ2カプセル回収」という興味深いお話を伺いました。みちびきの海外向け高精度測位補強サービスであるMADOCAが人類最先端のチャレンジに貢献しているという。

伊藤 MADOCA信号は、みちびき初号機では放送されておらず、2、3、4号機からのみでした。初号機後継機の稼働でようやく全機から放送できるようになり、本サービスに格上げされます。アジア・オセアニアの広い地域でぜひ海外の方にもご利用いただきたいです。

── 最後に打上げを応援してくれるみなさんにひと言、お願いします。

前田 みちびきはインフラとしてのサービスを提供する衛星です。決して派手ではなく、宇宙ファンの方々には物足りないと感じるところもあるかもしれませんが、ぜひ注目をしてほしいのが、今年3月に発表された新ロゴ(みちびき初号機後継機及び5~7号機打上げ用ロゴマーク)です。

打上げ用ロゴマーク打上げ用ロゴマーク

── 7つの星と独特の書体、中央に8の字、周囲に紫を配した印象的なデザイン。宇宙ファンの多くは「新世紀」が始まるというイメージを抱くのではないでしょうか。

前田企画官前田企画官 前田 私も世代的にはドンピシャで、このロゴを見るとテンションが上がります。

── すると、ひょっとしてこの初号機後継機は「シン・みちびき」ですか?

前田 ….(笑)。今回の打上げは大きな節目ですが、本当に大切なのは、その後、実際にサービスを開始することです。なるべく早くそれが実現できるよう打上げ後も努力を続けてまいりますので、ぜひ見守っていてください。

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)

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